東京地方裁判所 平成11年(ワ)23029号 判決 2000年9月08日
原告
昭和信用金庫
右代表者代表理事
A
右訴訟代理人弁護士
佐藤雅彦
外三名
被告
Y
右訴訟代理人弁護士
加藤隆三
主文
一 被告は、原告に対し、金六七四〇万五九七三円及びこれに対する平成五年八月三日から支払ずみまで年一八・二五パーセントの割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用を三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分について、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、二億〇二二一万七九二〇円及びこれに対する平成五年八月三日から支払ずみまで年一八・二五パーセントの割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 原告の請求原因
1 原告は、丸友産業株式会社との間で、昭和四九年四月一六日、信用金庫取引約定を締結し、債務不履行による遅延損害金は年一八・二五パーセントと約定した。
2 被告は、昭和五一年三月三〇日、原告に対し、丸友産業の原告に対する一切の債務を連帯保証した。
3 原告は、平成四年一二月三一日丸友産業に対し、弁済期を平成五年五月三一日、利息は年七パーセントと定めて、①一億円、②五〇〇〇万円、③五〇〇〇万円、④五〇〇〇万円、⑤五〇〇〇万円をそれぞれ貸し渡した。
4 平成五年五月三一日は経過したが、丸友産業は右貸付金の弁済をしない。
5 よって、原告は、被告に対し、保証契約に基づき、残元金二億〇二二一万七九二〇円及びこれに対する平成五年八月三日から支払ずみまで年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は不知。
2 同2は否認する。被告は保証人になったことはない。包括保証約定書にある印影は、不動産取引業の免許の書換えのために、被告の実印を同社の社員に預けたことが数回あり、その際に誤用されたものとしか考えようがない。
3 同3、4は不知。
三 被告の主張
被告名義の包括保証約定書は、限度額や期限の定めのない連帯保証であるから、身元保証法五条の類推適用又は信義則により、被告の責任を免れしめるのが相当である。すなわち、包括保証約定書が作成された昭和五一年と主債務の発生時期である平成四年との間には一七年間の経過があり、その間日本経済全体がバブルの波に洗われたことは周知の事実で、別荘地分譲・建売住宅販売等を行っていた丸友産業と原告との与信状況も一変していた筈である。しかし、原告は、丸友産業に三億円を貸し付けるに際し、被告に通知も確認もせず、さらに融資の時から七年間が経過した平成一一年になって本訴で被告の責任を追及している。また、被告は、昭和五一年当時から現在まで、個人でクリーニング業を営むのみで、被告の経済状態からすると右貸付金額の保証人たりうる能力はない。本訴請求は、たまたま原告の手元に包括保証約定書が存在したことを奇貨として提起されたものである。
四 被告の主張に対する認否
争う。被告は、原告が丸友産業と取引を始めた昭和四九年当時から現在まで、同社の取締役の地位にあり、一貫してその経営状態・経理内容を知りうる地位・立場にあった者であるから、連帯保証責任は免れない。また、昭和五一年に被告が連帯保証した時点における丸友産業の与信枠は約一億一二六五万円程度であり、当時の被告にとって、本訴請求額は予測不可能な数字ではない。被告の保証能力は、もっぱら原告の利益のために審査するものであるから、万一原告が見誤ったとしても、連帯保証債務の存否とは次元を異にする。
第三当裁判所の判断
一 請求原因1(丸友産業との取引約定)、3(丸友産業への貸付)は、証拠(≪証拠省略≫、証人B)により認められる。請求原因4(弁済期の経過)は、当裁判所に顕著である。
二 請求原因2(被告の連帯保証)について判断する。
≪証拠省略≫(包括保証約定書)の連帯保証人欄に押捺された印影が被告の印章によるものであることは当事者間に争いがないから、右印影は被告の意思に基づき顕出されたものと事実上推定されるところ、民訴法二二八条四項によれば、≪証拠省略≫の被告名義部分は真正に成立したものと推定される。したがって、請求原因2(被告の連帯保証)は、右≪証拠省略≫のうち被告作成部分により認められる。
ところで被告本人は、連帯保証した事実を否定した上、依頼されて印鑑証明を渡したことはあるが、≪証拠省略≫に押印した事実や印鑑を預けた事実については、その存否につき全く記憶がない旨供述する。また、被告申請の証人B(丸友産業の代表者)は、被告に保証人になってもらった覚えはない旨供述するが、丸友産業との連名文書であるはずの右≪証拠省略≫について、その作成経緯は全然分からない旨供述する。しかし、被告本人や証人Bのこの程度の供述によっては、前記印影の推定力に対する反証とは到底認められない。
よって、請求原因2を認めることができる。
三 被告の主張(保証金額の制限)について判断する。
前記認定、証拠(≪証拠省略≫、証人B)、公知の事実によれば、次の事実が認められる。
原告は信用金庫であるが、昭和四九年四月頃から、不動産業を営む丸友産業と取引をしてきた。原告は、昭和五一年三月頃、それまでの約五四五〇万円の融資に加え、新たに六〇〇〇万円を追加融資することとなった。そこで、被告に包括保証約定書を差入れさせ、期限や極度額の定めのない包括的な根保証をさせた。これにより、原告の丸友産業に対する融資残高は約一億一二六五万円になった。その後、原告と丸友産業との取引は継続し、日本経済はいわゆるバブル経済を迎えた。原告は、平成四年一二月、丸友産業に対し、本訴の対象である三億円を融資したが、その際、特に被告には通知等をしていない。パブル経済はやがて崩壊し、丸友産業は、事業に行き詰まり、原告から不動産を競売される事態に至った。原告が本訴で請求しているのは、右平成四年一二月の融資残高の二億〇二二一万七九二〇円及びこれに対する平成五年八月三日から支払ずみまで年一八・二五パーセントの遅延損害金である。
ところで、原告は、被告が丸友産業の設立時から取締役に就任し、その経営状況等を知っていた旨主張する。しかし、証人Bや被告本人は、名義だけ形式的に取締役に就任しただけで、経営には全く関与していない旨供述するところ、他に原告の右主張を裏付ける証拠はないから、右主張は採用できない。
以上の認定によれば、被告が期限や極度額のない包括根保証をしてから、本訴の融資が行われるまでに一六年以上の長期間が経過しており、さらに融資から本訴までに六年以上が経過していること、この間に日本ではいわゆるバブル経済とその崩壊があり、被告が保証した当時の融資額は約一億一二六五万円であったが、本訴の貸付当時は三億円の追加融資が行われるまでに取引規模が拡大していたこと、しかしその後に主債務者が経済的に破綻し、競売という事態にまで至っていること、現在の債務は、競売による回収を経ても残元本の二億〇二二一万円余が残っている他、右残元本を上回る多額の遅延損害金も発生していることが認められる。このような融資や保証の経緯、保証に際し認識すべき負担額、その後の融資と回収の推移、この間の経済情勢の変化、現在における多額の遅延損害金の存在、その他本件で窺える一切の事情を斟酌すると、包括根保証人である被告の責任額は、信義則により、請求額の三分の一である残元本六七四〇万五九七三円とこれに対する遅延損害金の限度(弁論終結時において合計一億五三〇〇万円を上回る)で認めるのが相当である。被告の主張(保証金額の制限)は、右の限度で認められる。
四 よって、本訴請求はその範囲で理由があり、その余は理由がない
(裁判官 齊木利夫)